またもや「言語における意味」記事回。今後のためのメモ。14章, 15章あたりから、ロジバンに使えそうなところをピックアップ。
# PS、zo'eまわり
述語を飽和させる(i.e. 完全な命題をつくる)のに必要な項の数を決める問題は第2章で述べておいた。ただ、述語を満たすのに必要とされる項の数は文の中核部にある統語的な項の数と必ずしも一致しない。たとえば、売買を表す動詞(buy, sell, etc.)には4つの意味論的な項がある:売り手、買い手、商品、対価の4つだ。
単項動詞(mono-argumental verb)とは、意味論的な項が1つだけある動詞のことだ。これには3種類ある:(i) 非能格動詞、(ii) 非対格動詞、(iii) 使役/起動の交替をみせる動詞:
- 非能格動詞:「動詞が明示する出来事に能動的に関わりをもつととらえられる主語をとる自動詞のこと」。
- 非対格動詞:「自動詞で、典型的に状態の変化・位置の変化を表す。動詞が表す出来事に主語が能動的に関与しているとはとらえられない」。
## 擬似自動詞
「主動詞が2つ以上の意味的な項をもつ自動詞文に便宜上はられたラベル。」
「「見あたらない」項は通常なら目的語の位置に現れるはずの項だ。」
- (27) Thanks, we've already eaten.
- (28) Be careful, John's watcing.
- (29) I was shaving when the bomb went off.
「主に区別されるのは、表現されない項が不定のもの(e.g. (27))と、表現されない項が定のもの((28)と(29))の2つだ。」
(28)と(29)は、その表現されない項が主語と同一だということから区別できる。
### 定と不定*1の差異
- (30) Mary's watcing.
- (31) Mary's reading.
「どちらの動詞も―(中略)―行為の被動者がないと意味をなさない:なにかを見たり読んだりするのでないかぎり、見ることや読むことはできない。」
「watchの場合には聞き手は特定の直接目的語を(文脈から)復元してやる必要がある」が、「readの場合はその必要がない」。
「マシューズの用語(Matthews 1981)を借りて、(30)には「潜在的な」直接目的語があるということにしよう。」
「読むことは自律的な活動とされるが、見ることはそうではない。」*2
「watchは動詞句照応で同一性制約を求めるのに対し、readはそうではない」
# 時制
- ベクトル的(vectorial):「発話時から時間軸にそって事象時に向う方向だけを示していて、その事象がどれくらい遠くはなれているかを示さないような時制体系」
- 計量的(metrical):「方向だけでなく隔たりの度合いをも文法的に符号化する体系」。*3
# アスペクト
時制は事象を時間のなかに位置づける。一方、アスペクトは、事象がいつ起こったのかについてはなにも言わず(含意による場合は例外)、事象を概念化する特定のやり方を符号化したり、あるいは、時間経過とともに事象が進展する仕方に関する情報を伝える。
- 意味的現象としてのアスペクトと特定言語のアスペクト標識とを区別すること:
意味的現象としてのアスペクトと標識は一対一関係にないことが多い。 - 「どの文法標識とも独立に語彙的動詞がその意味の一部としてアスペクトの情報を符号化している場合がある」:
「これによって、(文法的な)アスペクト標識とその動詞の意味との相互作用のあり方が影響を受けることもある。」
ここでは、「事象」を「出来事」と「状態」をひとまとめにしたものとする。
「事象は少数のアスペクト・クラスのどれかひとつに分類されると考えられている。」
## アスペクト特性(素性):変化・境界・持続
### 変化 (change)
「事態は変化しているか一定不変だととらえられうる。」
「一般に、もしあることが「起こる」もしくは「起こっている」なら、変化が関わっている」
### 有界性 (boundedness)
「事象のなかには、1つか2つの内在的境界をもつものがある。」
### 持続 (duration)
「持続的/点的の対立は、たしかに客観的な持続時間と無関係ではないとはいえ、本質的にはとらえ方の問題」
## アスペクト特徴
「アスペクトは基本的に事象の特性であって、個々の語彙項目の特性ではない。」
「けれど、個々の動詞はその意味に内在的なものとしてアスペクトの情報を符号化していて、文脈に圧力を受けたときのだけそれと別のアスペクトに参与する。」
「こうした動詞には特定のアスペクト特徴があると言う。」
- 状態
- 活動
- 到達
- 達成
- 一回相
- 起動相
- 終止相
- 反復相
反復相は「何回かだけ繰り返される活動・過程」を表す。
しかし、「反復される動作の動詞すべてがこのリストに含まれるわけではない」
たとえば、歩行を構成する動作の単位は数の表現で取り上げられない:
「メアリーはおしりを10回くねくねさせた」vs「メアリーは10回歩いた」
「ぼくらは「メアリーが10歩進んだ」という意味にはとらず、歩くという行為を10回行なったと解釈する」。
## 状態 (states)
- 等質:いかなる変化も含まない
- 終端なし:内在的な始まりも終わりもない*4
- 持続的:本質的に時間を通じて存続する
## 活動・過程 (activities, processes)
※「両者はアスペクトとは別の動作主性の特性で異なる。」
- 不等質:なにごとかが「すすんでいる」
- 非有界:内在的な到達点にむかう運動としてとらえられるわけではない
- 持続的
もちろん、文脈によって境界の構築が引き起こされることもある。
## 達成 (accomplishment)
- 不等質
- 有界:内在的に達成されうるものである
- 持続的
stop と組み合わせると活動と達成の差異がわかる。
「達成」はfinishできる。
## 到達 (achievement)
「ある状態から別の状態への移行が瞬間的なものとしてとらえられた事象のこと」
- 不等質
- 有界:移行の時点
- 点的
起動相(inchoative aspect):状態の移行が新しい状態の開始と感じる場合
終止相(terminative aspect):移行が旧い状態の終わりととらえられる場合
## 一回相(semelfactives)
- 不等質
- 有界
- 点的
「到達と違うのは、2つの状態間の移行が関わっていないという点」。
## 完結相*6
「完結相は、完結していて内部構造のない分解不可能な概念的単位として事象をとらえる。」
「注意点として、完結相は、たとえば事象が点的か持続的かといったこと、事象そのものに関することにはなにも述べない:完結相がやるのは、その時間的な推移なんて関係ないかのように事象を扱うことだ。」
「完結相と同じく非完結相もいろいろな事象タイプと両立可能ではあるものの、持続的な事象はおのずから点的な事象よりももっとたやすく非完結的なとらえ方に身を任せる傾向がある。」
「ときとして、ある言語では時制の体系で伝達されるものが別の言語ではアスペクトの体系で伝えられることもある。―(中略)―。過去時制と完結相とのつながりは、典型的に言って、完結した事象とは過去に起きた事象だというところにある;同様に、基本的な想定として、未完の事象は目下進行中のものであって、だから非完結と現在時制とのつながりが生じる。」
# 様相(モダリティ)
「様相表現とは、(典型的に言明において)表現された命題や述べられた状況に対する話し手の特定の態度を合図するもののことだ。」
様相のタイプは3つ:
- 認識様相(epistemic modality)
- 束縛様相(義務様相とも;deontic modality)
- 動的様相(dynamic modality)
## 認識様相
「命題の真偽に話し手が肩入れ(コミット)しようとする度合い」と関係。
判断(judgement)と証拠類(evidential)に区別できる。
判断は「話し手がもっている [命題の真偽に対する] 自信の度合い」。
証拠類は、「話し手が判断をする際の根拠に関わる」。*7
## 束縛様相
「「やれ!」「やるな!」にまたがる領域」
must, ought to, should, may, shouldn't, ought not to, mustn't
## 動的様相
能力・無能力に関わる。「できる」「きっとできる」「できない」
動的様相には「意志」を含める場合が多い。
# 形容詞について
「典型的に形容詞は無時間的な特性を表す。すなわち、時間経過に対して相対的に安定した特性か、あるいは、時間経過について考慮が一切必要とされないようにとらえられた特性を表す。」
## 段階性
- 段階的形容詞:さまざまな度合いがあると考えられている属性。長さ、重さ、速さ、温度など。
- 非段階的形容詞:「より多い・少ない」でなく「あるかないか」と考えられている属性。人物は「生か死か」、ドアは「鍵がかかっているかそうでないか」、人は「結婚しているかしていないか」のどちらか。
## 絶対/相対
- 絶対タイプ:名詞N2がN1の上位語のとき、A is a Adj. N1 が A is a Adj. N2 を伴立するなら 絶対的形容詞。e.g. 「黒い」
- 相対タイプ(狭義タイプ):絶対タイプでないもの。e.g. 「小さい」
「相対形容詞の本質は、主要部名詞とのつながりがあてはじめて解釈できるという点にある。」
## 形容詞のアスペクト特徴
- 状態:特定の状況と特定の原因に結びついている。
- 傾性 (disposition):一般的な傾向がある。特定の場面・状況ではなくさまざまな場面・状況に関連している。
afraid と timid, calm と placid など。
## 修飾におけるいろいろな結合様態
- ブール結合:共通集合的。「赤い帽子」
- 相対的な記述子:被修飾語は修飾語の解釈の仕方を決定するし、修飾語は被修飾語の該当範囲を狭めているという意味で双方向の相互作用がある。「大きなネズミ」。
- 否定的な記述子:修飾語がその主要部を否定する効果をもち、しかも同時に、意図された指示対象をどこに見当をつければいいかを示す。「前大統領」「贋作の陶瓶」「模造毛皮のコート」「複製アンティーク」
- 間接的な結合:「美しい踊り手」。踊り手が美しいのか、踊りが美しいのか。後者のように意味が再構築される結合のこと。
- 内部モードの変異:活性部位:結合した2つの意味が相互作用する精確な場所を表す。「赤い道路標識」(記号の部分だけが赤い)、「青い目」(虹彩が青い)、「赤い目」(白目のところが赤い)、「赤い本」(表紙が赤い)
# 否定接辞の種類
「その効果は結合相手になる語幹の意味属性から少なくとも部分的に予測がつく。」
## 論理否定 (logical negation)
「~ということはない」(it-is-not-the-case-that)。
「上記のテストが機能するには、領域の限定がなされていて、しかも接頭辞のついていない語幹の前提が機能しているという仮定がかかせない。」*10
## 極性否定 (polar negation)
段階的な属性を明示する語幹*11に否定接辞を適用したときに生じやすい。
相補語にならず、「極性的な反対語、すなわち反意語になる」。
「命題どしは矛盾ではなく反対になる。」
## 反転的否定
「状態や場所の変化を明示する動詞に適用すると、通常、否定接辞は反転的な反対関係をつくる。」
"dress/undress", "tie/untie", "pack/unpack" など。
## 欠如的否定 (private negation)
「なにかを取り去るという観念」が関与。英語だと "de-", "-less", "-free"など
## 領域外否定
"non-"にみられる。
「in-humanな取り扱いはnon-humanによる取り扱いではない。人間による取り扱いのなかでも、人間なら当然期待される倫理的な行動基準に達しないと判断されるようなもののことだ。」
non-professional/unprofessional 「素人の」/「専門外の、プロらしからぬ」
「接頭辞 non-のついた単語はその語幹に関連する領域の外部にあるものを評価ぬきに示している。」
## 根底的な否定 (radical negation)
(26) The King of France is not wise because there is no King of France.
「(26)は Seuren(1985)のいう根底的な否定(radical negation; 卓袱台返し)の一例になっている。こういう否定では、肯定文の前提が取り消される(この場合ならフランス国王が存在するという前提)。」
*1:どちらかといえば、特定/不特定の対立のように思う
*2:ここの「自律的」がイマイチよく理解できていない。どちらも被動者を必要とするというのと相反するように思える。動作の自律性は文化に相対的な気もする。おそらくここで言いたいことは、たとえばアイヌ語で "peray"(釣りをする)と "peraykar"(~を釣る)や "ipe"(食事をする)と "e"(~を食べる)の区別があることを踏まえると、「読む」行為も(少なくとも英語では)「読書をする」「~を読む」の(概念的な)対立があるということだろう。素人考えだが、行為の被動者の類(kind)が慣習的に定まるような動作は「自律的」だと言えそうだ。「釣り」も「食べ」も「読み」も、典型的にそれを行う対象の類は定まっている(それぞれ、「魚」、「食べ物」、「本」)。一方で、「見ること」は非常に多様なものに対して行える。あえて言えば、「見ること」の被動者の類は「可視実体」というかなり広い類である。ちょっと踏み込んで考えてみると、「可視実体」はおおよそ「「見ること」のできるもの」ということであって、同語反復である。「魚」「食べ物」「本」は「「釣る/食べる/読むこと」のできるもの」よりも具体的であるように思う。この差異が動作の自律性のように思われる。
*3:「ヤグア語(Yagua)の文法的時制体系では過去が次のように区別されている:①過去(今日)、②昨日、③数週間のうち、④数か月のうち、⑤遠い過去」
*4:「状態もいつかは終わるのでは?」というのは、「状態」という事象から「状態が始まって、いくらか続いて、終わる」という事象に視点を(無意識に)シフトしてしまっている。状態は「いくらか続いて」の部分だけに着目した事象で、そこに「開始」「終了」の発想はない。
*5:起動相、終止相は、新旧どちらの状態のほうにフォーカスが向けられているか(もしくは馴染みが深いか、あるいはより重要か)によって変わってくるのだろう
*6:上のアスペクト特性と同列にしてあるが、同書では節が異なっていることに注意されたし
*7:つまり、「その自信(真偽の判定)はどこからくる/導いたのか」「その真偽をどうやって判定したのか」を明示するのだろう。
*8:余談だが、ここの記述で「1座の述語」「2座の述語」という用語が出てきている。ロジバンでも流用できそうな用語だ。
*9:この結合様態の話は、tanruの解釈の考察において非常に有意義だと思われる。CLLでは「ある関係Rで概念的に結ばれている」とかなり曖昧に記述されているが、この説明には難点がある(否定関係も関係のひとつだ)。CLLが言いたいのは、上記のような「様々な結合様態がある」ということであろう。要は「自然言語と一緒」である。
*10:例として、「dead と alive が相補語になるのは、生物の領域だけに限られること」、3歳児に対する「married/unmarried」が挙げられている。
*11:形容詞なら段階的形容詞だろう